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photo:永田陽

谷野明夫‘いきの器’展

2/2 Sat. 〜 24 Sun. 2008

「いき」といえば、江戸期に花開いた文化の一つの極みというイメージがある。九鬼周造(哲学者)は、いきの定義をこころみて「垢抜けて、張りがあって、色っぽいこと」と言っている。いきはたて縞にとどめをさすという。そういえば祇園でたて縞は見ない。京阪ではいきというより「すい」のほうではないか。友禅、光琳はいきではないという。いきは江戸の化政期に頂点に達する。どこから生じたものかと言えば、それは玄人(遊里)と役者(梨園)から生じて次第に素人におよんだという。そして明治までは残っていたが、震災をさかいにみるみる亡んだということである。当たり前だが今に化政期のようないきは望むべくもない。いきは過去からの日本人的なものの連続のうえに成り立ったものであるから、すでに復活は絶望的なのである。第一、着物が滅んで視覚的にいきを気取ることができなくなった。洋服をいくら追求してもせいぜいシックあるいはエレガントである。そして日本人はあのファッション誌の外人モデルに永遠にかなわない。またいきの典型や手本を芝居に見ることもしなくなった。歌舞伎には男の中の男、女の中の女が抽象されているのである。あの中から何がみっともないかそうでないかを学んだのである。

 九鬼は垢抜けてを「諦」、張りがあってを「意気地」とも言い替えている。いきは初め風俗やファッションから生じて、而してたとえ抵抗があろうと内部(精神)をも圧し、従わせるに至ったということであろう。しかし見た目も内面もまるごと本物のいきであることは、ほとんど不可能事のように思われる。それならいきはフィクションなのかと言えばたぶんそうなのだろう。しかしそれでも人はいきになりたがる。やぼには断じてなりたくないはずである。 

 いきの中なる諦観とか意地に対立するものとして、欲深や未練、無様、不体裁といったものがあると思うが人は生きている限りこの対立に悩まされる。しかしこの対立、アンビヴァレンスがかえって止揚されたものを生み出すとも言えるのではないか。これらの対立は葛藤をくり返すうちに、一つのフィクショナルな理想形へと近づいて行こうとする。まあ宗教くさくない煩悩との闘いであろうか。そこには道徳を含むストイシズムや克己のようなものが要求されるのではないか。それが江戸の市井の人たちの間に一種の美学というかスタイルとして広まっていったのは、いきというエートスが醸成されていたからであろう。その範疇に色っぽさまで加わって、いきは文化へと昇華されたのである。いなせな男だて、あでな、時には鉄火な女。彼らのうちには見た目を裏切らぬ内面をそなえている者が多かったのではないか。下町の人間であろうと、醜を圧しころして美たらんとするといった、いわば名を惜しむ風があったのである。ついでにいきとはつらいものなのである。

 文化文政と言えば、江戸も終わりに近づくころで、陶磁史的には発生的なものは見当たらない低調な時代であったと言えるが、江戸では平和が二百年も続いて庶民の文化は極みに達していた。いきの神髄に迫ろうとしていたのではないか。今から思っても筆者はあの時代にある種の憧憬を禁じ得ない。そして当時のいきな人たちが日常どのような器を選んでいたのかに深甚なる興味をおぼえる。ヴィジュアルな資料があれば見てみたいと思う。彼らは階級的には茶道的趣味の外にいた人たちだろうから、器など何でもよかったのかも知れないが…。
 またしかし夢想する、今展の谷野明夫の器をあの時代へ持って行くことができたら、そして彼らの目の前に陳べてみたら、イキな彼らはその猿臂(エンピ)をのばしてくれるだろうかと。谷野の作にはいきの試みが見られる。この度はそれをテーマに据えていただくこととした。

葎

Akio Tanino
1949 京都市生まれ
1977 京都市立芸術大学美術学部専攻科修了
1978 信楽に陶房をつくる
1990 信楽秀明文化基金賞
1999 信楽陶芸展審査員特別賞
2004 日本伝統工芸近畿展 京都新聞社賞
2005 滋賀県文化奨励賞
     
日本伝統工芸近畿展 鑑査委員
日本工芸会正会員
滋賀工芸美術協会会員 

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