先日、信楽の陶芸の森へ、植葉さんの作品の撮影に行ってきました。この展の案内状用と彼女の資料用にということで、地元のカメラマンに頼んで撮ってもらいました。張りきって行ったのですが、しかしちょっと張りきりすぎの上滑りだったようで、いま思い返すとああすればよかったこうすればよかったと忸怩たる思いがありまして、彼女にも悪かったと後悔しているところです。なにごとにつけ後悔のし通しです。信楽で作った彼女の労作、キメラの大作が四点鎮座していたのですが、差し渡し二メートルほどの超ド級のものもあり、これは屋内では無理だ、外で撮ろうと、人力とフォークリフトで屋外へ運び出します。二、三百キロはあったでしょう。麒麟のごとく掉尾(とうび)をふるって今にもブルッと動き出しそうです。ギリシャではキメラ、こちらで言えばキリンでしょう。そしてこれらを並べて一堂に撮ったら圧巻だろうと思い、ようやっと三点横に並べて撮ったのですが、これが失敗でした。三点ともワクにおさめようとすると、相当遠くから撮らざるをえず、当然小さく写ってしまい、一点一点の存在感とスケール感を殺してしまうことになってしまいました。もっといいアングルがあったのにとか、もっとたくさん枚数を撮ればよかったとか、後悔しきりです。運び出してこっちだあっちだと位置を決めたところで、一仕事終えたような気になってしまったのかもしれません。挙句、撮影なかばで今回はダメかもなあと、一人でそんな予感もかすかにあったものですから、「そしたら服でも脱いで作品の横にうずくまってもらおか」。などとヤケクソ的なことを言ってしまい、彼女は笑ってましたが、軽口をたたいてまた後悔です。よく何かの大きさがわかるようにタバコの箱を横に置いて撮ったりしますが…。すべった上に失礼千万なことでした。
さてキメラほかの植葉作品は、びっしりと立錐の余地なく、うるさいくらい文様が描き込まれています。あれらはアタリをつけずに無造作に片っ端から絵付けをしていくそうです。そして埋め尽くさずにはおかない。文様の種類もおびただしい。絵付けをしているときは髪も梳(くしけず)らず忘我の境地で、何昼夜もトランス状態のようです。装飾ということへの彼女の暴力的なアプローチは当初から驚異でした。しかし出来上がったものは不思議に一つのコスモス的秩序をなしていて、デザインとか計らいといったものを超えた、なにかあっけらかんとした無為ともいえる様子を感じさせるのです。作りたい、なにもかも盛り込みたいという創作のリビドーの赴くままに作られたもの。その勃然(ぼつぜん)たる力の凝り固まったようなもの。区々たる解釈などは受け付けないもの。大いなるナンセンスを含むものといった風情です。だから筆者も言うほどに唇寒しとなるのですが、しかしとにかく、この手のやきもので、この手というのは京焼も含めた洗練とみやびの京都的伝統に連なるものでしょうが、その京都的なるものをある種否定し、と同時に別次元のところでバーバリックなまでの美へと昇華できているのは、ひとえに彼女の天賦の才がなさしめるところなのでしょう。生まれつきのような文様をみっしりと浮かび上がらせてそこに息づいているキメラたち。これらはフィギュアというより、造化の妙の断片を示してクリーチャーのような印象であり、筆者は、これを造物した神ではないですが、これを生(な)したその張本人の存在というものも一緒に焼き付けておきたいと、撮影中にそんなふうにも思ったのでした。
今回の撮影行はそんなこんなで不如意なものでしたので、それでしかたなく、写真のキメラはオーストラリアへ行ってしまったものなのですが、これに彼女がまたがっている図を使うことにしました。洒落で撮ったような写真を使うことになってしまったわけです。四点あったうち、これでも小ぶりなほうですが、その大きさと迫力はお分かりになれると思います。去年から彼女は陶芸の森の研修館で制作しております。去年今年とほとんど行きっぱなしです。今は研修館で合宿のような生活をしています。設備も整っているから大物にも挑戦できます。マキ窯にもトライしています。見るからに生き生きとしていました。今展では、従来の色絵ものに加え、マキ窯のものも出展される予定です。ですから今回は新手(あらて)が見られるわけです。<往って来い窯>と呼ばれるマキ窯のものと、普通の穴窯で土器風に低火度焼成されるものです。彼女がどのような造形をなし、どのように装飾をほどこすか。是非ご期待くださいませ。筆者としてはもっと京都にいて京都で作ってほしい気がするのですが、奔馬のような人ですので、まあ御せるものではありません。きっと信楽の水が合うのでしょう。作品のさらなる展開を願いつつ、撮影行状記の一席のおそまつでした。-葎-
UEBA KASUMI
1978 京都生まれ
2001 京都市立芸術大学陶芸科卒
2002 京都市工業試験場陶磁器コース了
2003 京都府陶工高等技術専門校図案科卒
2005 個展 ギャラリー器館(京都)
個展 高島屋美術工芸サロン(京都)
2006 個展 サボア・ヴィーブル(東京)
二人展 イムラアートギャラリー(京都)
個展 ギャラリー器館(京都)
個展 高島屋美術工芸サロン(京都)
2007 個展 サボア・ヴィーブル(東京)
個展 ギャラリーこうけつ(岐阜)
個展 ギャラリー顕美子(名古屋)
個展 ギャラリー器館(京都)
個展 シルバーシェル(東京)
2008 個展 祇をん小西(京都)
個展 サボア・ヴィーブル(東京)
京都府美術工芸新鋭展(京都文化博物館)
パラミタ陶芸大賞展出展(三重)
個展 ギャラリー顕美子(名古屋)
2009 個展 ギャラリー器館(京都)
個展 サボア・ヴィーヴル(東京)
個展 目黒陶芸館(四日市)
個展 山木美術(大阪)
高島屋巡回展-未来へのタカラモノ(東京、大阪、京都)
2010 個展 祇をん小西(京都)