青瓷の源流「秘色」へ 梶原靖元展によせて
現代の唐津焼中興の、影の立役者と言いうる梶原靖元について、私はすでにいくつもの文章や批評を発表してきた。あまり読まれている実感がないので、ここで簡単にそれを繰り返せば、陶芸において「原理的」であるとは、見た目(色、形、質感、手取り…)を写すことではなく、その見た目を生み出す本質的な原理(素材の地質学的分布と特性、釉薬の化学的配合、窯構造と焼成方法、文献伝承ではなく考古学的に同定された現物や陶片の分析)をこそ問題とすることである。古陶磁の「写し」は数百年前の伝世品を写す、つまり最初から数百歳の作品を作ることであり、中国の数多の窯跡地で生産される「倣製品」は、古陶磁の原理を突き止めたうえでそれを再現する。前者には原理がなく、後者には原理があるが、どちらもゴールが定まっている点では同じである。両者とは異なり、梶原靖元は、その原理に則っていわば数百年前の陶工に成り代わり、新作を作るのである。
梶原は唐津焼の陶芸家として、当然ながらまず古唐津の本質を探求した。古唐津とは、唐津の素材で作られた朝鮮白磁(石もの)のヴァリエーションであった、と。そうであれば、当然その源流は朝鮮半島にあるから、作家は半島に研究滞在し、さまざまな朝鮮陶磁の本質を掴み取る。さらにその源流を遡れば、高麗陶磁に至るだろう。高麗青磁については、北宋の外交官、徐兢(じょきょう)がその高麗視察の報告書『宣和奉使高麗図経』(1124年)のなかで、「狻猊出香亦秘色也…諸器唯此物最精絶 其餘即越州古秘色 汝州新窯器 大概相類」と大絶賛したことはよく知られている。「獅子の香炉も秘色だった…これらの作品は素晴らしい出来で、古の越窯の秘色、今の汝窯の器に匹敵する」、つまり、高麗青磁は、同時代の汝窯の影響下に誕生し、その汝窯は、越窯の「秘色」に遡る、と。
陸羽(りくう733−804)の有名な『茶経』でも「盌 越州上 鼎州次 婺州次 岳州次壽州洪州次 或者以邢州處越州上 殊爲不然 若邢瓷類銀 越瓷類玉 邢不如越一也 若邢瓷類雪 則越瓷類氷 邢不如越二也 邢瓷白而茶色丹 越瓷青而茶色緑 邢不如越三也(四之器十八)」とあって、陸羽は越窯を邢窯の上におき、その理由は後者が銀なら前者は玉、後者が雪なら前者は氷、茶の色は邢窯白瓷では丹(あか)く見え、越窯青瓷では緑に見えるからだと論じる。
しかし、本展について、梶原は晩唐の詩人、皮日休(ひじつきゅう834−884?)の「茶中雑詠」より「茶甌(ちゃおう)」という詩を選び、「漢詩の中の器を作ってみました」と言う。皮日休にとって、邢州窯と越窯は同等であった。邢客與越人/皆能造茲器/圓似月塊堕/軽如雲魄起… 邢窯と越窯/どちらも能くこの器を造る/円きは月塊の堕つるに似/軽さは雲魄の起こるが如し。越窯の「秘色」青磁については、皮日休とも接点があった、唐代の陸亀蒙(りくきもう?-881)『秘色越器』の詩句「九秋風露越窯開、奪得千峰翠色来」のほうが知られているだろう。晩秋の風が冷たい折に越窯が開かれる、千峰の翠色を奪い得て来たようだ、と。越窯秘色を歌った詩には事欠かない。
また徐夤(じょいん849-938)の詩「貢余秘色茶盞」では「捩翠融青瑞色新(翠色を捩って青を融かせば瑞々しい色は新しく) 巧剜名月染春水(巧みに名月を抉って春の水に染める) 軽旋薄氷盛緑雲(軽く薄氷をめぐらせ緑雲を盛る)」と表現されている。
越窯秘色については、1987年、西安の法門寺地下宮殿からの発掘品のなかに、そう名指された品々が含まれていたため、実物の色彩が確認できるようになった。それは皇帝用の貢品で、当然ながら日本には伝来していない精品であり、のちに汝窯や龍泉窯に連なっていく軽やかな青緑色を湛えていた(無中生水:空っぽなのに水を湛えているように見える)。一応の答えは出ているのだ。しかし作家は「漢詩の中の器を作ってみた」とーなんという自信だろう!ー言うのだから、今展には、梶原靖元流の「秘色」青瓷が並ぶのであろう。円きは月塊の堕つるに似、巧みに名月を抉って春の水に染める、すなわち春の湖面(上林湖か)に写った月の丸さ。軽さは雲魄の起こるが如し、すなわち焼き上がり、手取りはあくまでも軽い、と。陸亀蒙は晩秋の凛とした空気の中へ、窯のなかから新緑の季節の翠色が流れ出してきた感動を歌い、徐夤によれば、それはただの翠色ではなく青が融かされており、おそらくは陸羽を踏まえて、薄「氷」に緑の雲が盛られている色調である、と。展覧会の初日が待ちきれない。
清水穣(美術評論家)
(本校執筆にあたり布目潮渢『茶経詳解』(淡交社2001年)を大いに参照しました)
素瓷急須&出豹(イラボ)茶承、雲泥出豹(イラボ)茶海、雲泥蓮葉薄氷盃
素瓷急須&出豹(イラボ)茶承、雲泥出豹(イラボ)茶海、雲泥蓮葉薄氷盃
素瓷急須&出豹(イラボ)茶承
雲泥出豹(イラボ)茶海
雲泥蓮葉薄氷盃
photo:Takeru KORODA
梶原靖元展Yasumoto KAJIHARA
Longing & Looking for The Fundamentals
4/4 Sat. 〜 19 Sun. 2026